藤本壮介の建築:原初・未来・森

(2025年|森美術館)
2025年に開催された本展は、単なる作品回顧ではなく、
藤本壮介の建築思想そのものを“森”というメタファー(隠喩)で体験させる展覧会だった。
展示空間は一本道ではなく、回遊型。
模型、ドローイング、スタディ、映像、素材断片が林立し、来場者自身が森の中を歩くように思考を辿る構成になっていた。
建築家 藤本壮介 の思考を、8つのセクションで読み解く展覧会。
1 思考の森

建築の原点を探る空間
冒頭では、初期住宅作品の模型や手描きスケッチが中心に展示されていた。
《House N》《House NA》などのスタディ模型が層状に並び、入れ子構造や曖昧な境界の発想が立体的に理解できる。
ここで提示されるのは、
- 建築は「箱」ではない
- 居場所の集合体である
- 内と外は連続する
という根源的な問い。
“森のような構造”という藤本の基本思想が、静かに提示される導入部だった。
2 軌跡の森

キャリアを辿る年譜空間
学生時代のプロジェクトから国際的なコンペ案まで、
模型・写真・図面が時系列で配置されていた。
小さな住宅から公共建築、都市スケールへと拡張していく軌跡が可視化され、
- スケールが変わっても思想は一貫している
- 森という概念が徐々に社会へ開かれていく
ことが読み取れる構成だった。
3 あわいの図書室

“間”を読む空間
展示の合間に設けられたラウンジ型セクション。
建築、哲学、自然科学など関連書籍が並び、来場者が座って思考を整理できる空間になっていた。
ここでのキーワードは「あわい(間)」。
- 内と外のあいだ
- 人と人のあいだ
- 建築と都市のあいだ
藤本の建築が常に扱ってきた“中間領域”を、読書という行為を通して再確認させる構成だった。
4 アニメーションの森
思考の“動き”を見せる
静的な模型だけでなく、
スケッチや図面にアニメーション投影を重ねたインスタレーションが展開された。
アイデアが生成され、拡張し、変化していく過程を可視化することで、
建築を完成形ではなく「プロセス」として提示していたのが印象的だった。
5 開かれた円環

巨大構造への挑戦
2025年大阪・関西万博の象徴
大屋根リング に焦点を当てたセクション。
- 4m級の大型部分模型
- 構造検討模型
- 継手のモックアップ
- スケールスタディ映像
巨大な円環でありながら、中心を持たず、回遊性を生む構造。
“森”の概念が都市規模へ拡張された例として提示されていた。
6 ぬいぐるみ建築談義

思考の裏側
スタジオで制作されたぬいぐるみ模型が並ぶ、遊び心ある空間。
作品同士が“対話”しているかのような展示で、
スケッチブックやメモとともに、設計プロセスの柔らかな部分が垣間見える。
合理性だけでなく、想像力とユーモアもまた建築の一部であることを示していた。
7 たくさんの森

都市への拡張
複合施設や都市開発プロジェクトの模型群が展示され、
- 多層的な動線
- スケールの異なる居場所
- 中心を持たない構造
が提示される。
ここでの森は単数ではない。
機能・人・環境が重なり合うことで生まれる“複数の森”。
住宅スケールで始まった思想が、都市へと拡張した姿が示されていた。
8 未来の森・原初の森

思考の先へ
最後のセクションでは、球体群による未来都市構想模型や映像が展開される。
テクノロジーを活用しながらも目指すのは、
制御された都市ではなく、森のように自律的で有機的な構造。
原初性と未来性は対立しない。
むしろ同時に存在し得る。
展覧会タイトルの意味がここで回収される。
展覧会全体を通して
本展は、
- 初期住宅(原初)
- 都市プロジェクト(拡張)
- 未来構想(展望)
という時間軸を辿りながら、
藤本壮介の建築を「関係性の森」として再定義する構成だった。
模型の量、スケッチの密度、思考プロセスの可視化。
どれもが“完成作品”よりも“生成の過程”を重視していたのが印象的である。